第13回「学習臨界期と絶対音感」
こんばんは、堀江真鯉男です。
このブログでは「声を良くする!テクニック」として、声楽家として自分が日頃気づいたこと、学んだことをまとめるために書き記しています。声の悩みを改善するサポートとして、何か皆さんのお役に立てたら嬉しいです。
さて、今回のテーマは
「学習臨界期と絶対音感」
についてです。
さあ、また聞きなれない単語が出てきましたね?
学習臨界期…?なんなんだそれは??
それと音感が、どう関係あるんだ???
結論から言います。
ある条件さえ揃えば
大人になってからでも絶対音感は身につく
という話です。
さっそく見ていきましょう。
学習限界年齢と臨界期
僕たち人間の成長過程には、教育や自己学習によって体得するもの、そして脳と身体の成長過程で自然と体得するものがあります。
教育や自己学習というのは多くの場合、家庭や学校、社会のなかで「ルール」や「知識」、「テクニック」などを学ぶために行われます。
しかし脳と身体の成長は、一般的に言えば、自分の意思でコントロールできる領域ではありません。視覚野や言語野といった脳機能の基礎的部分は、7歳ころまでに成長を終えると言われています。一次成長〜二次成長といった生理学的な身体の成長も、自らの意思で干渉することの出来ないアンコントローラブルな領域です。
脳機能のひとつである言語野の成長もその限りではなく、たとえば母国語の学習限界年齢は7歳までだと言われています。こうした学習限界年齢を「臨界期」といいます。
ここからは学習限界における臨界期を縮めて
「学習臨界期」
という用語を使っていきます。
絶対音感=言語?
音感は大きく2つに分けて「相対音感」と「絶対音感」があります。
相対音感とは、複数の音の高さを聴いて比べた時に「音の高低や明暗、強弱などのバランスが相対的にわかる音楽的能力」のことをいいます。脳機能で言えば「複数の音を右脳(抽象的)に処理する能力」のことを言います。
対して絶対音感とは、単音だけを聴いた時に「音名(周波数で規定された音の名前)や特定の言語的意味(感情や色彩など)が、いついかなる時も絶対的に変わらない言語的能力」のことをいいます。脳機能で言えば「個別の音を左脳(言語野)で処理する能力」のことを言います。
「えっ急に難しくなってきたな。つまりどういうことなんだ??」
簡単に言うと、
相対音感とは「音楽をするために必要な比較能力」のことで、
絶対音感とは「比較対象が無くても音が個別にわかる能力」のことを言います。
絶対音感のユニークな点は、
「個別の音を左脳(言語野)で処理する能力」
という部分です。
これはどういうことかと言うと、絶対音感の人は音に個別に付けられたシリアルナンバーがいつも分かっていて、ある音の高さを聞くと「G(ソ)」というシリアルナンバーが言語野から引っ張られてきて、またある音の高さを聞くと「E♭(ミのフラット)」というシリアルナンバーが言語野から引っ張られてくる、というシステムで音を識別しているのです。
このように絶対音感は言語野の処理能力に依存するものなので、通常は学習臨界期を超えると、絶対音感は習得が困難になってしまいます。
学習臨界期を突破する方法
「学習臨界期は7歳かあ。それって、大人になってからは絶対音感は身につかないってことだよな。うーん、子供の頃に音楽をやっていなかった人は、音楽なんて出来ないのかなぁ…」
そんな声が聞こえてきそうです。
でもそんなつまらないことを、わざわざブログで書きませんのでご安心を。
学習臨界期には
突破方法があります。
その条件の1つ目は、
「自分が大好きなことなら突破できる」
です。
みなさんは、子供の時にどんなことに興味がありましたか?木に登ったり、おままごとをしたり。絵を描いたり、ゲームをしたり、スポーツをしたり。子供の頃って、自分の好きなことばっかりやって、親に叱られても止めなかったりしますよね。(まあこれは大人になってからも変わらないかもしれませんが!)
そして自分が大好きなことばかりしていれば、必ずそこにかける時間は他の人より圧倒的に多くなります。こうした圧倒的な時間のかけ方だけが、さまざまな能力を高める基本になります。
「大好きなことに、膨大な時間を使う」
これが、1つ目の条件です。
2つ目の条件は、
「徹底的にトレースする」
です。
これは絶対音感の学習に限ったことではありませんが、物事の上達には、理屈を考えずにただひたすら真似をすることが大切です。僕達が日本語を習得できたのは、無意識にひたすら親の会話や周囲の会話を真似し続けた賜物です。
赤ちゃんの時に「ふむ、母親の口元が大きく開いた時がAの母音か。表情筋もあげた方が効果的かもしれない、参考にしよう」なんて考えていた人はいないと思います。もしそんな人がいたら、その人は最初から日本語を習得していたことになり、日本語を新たに学習する必要がないことになりますよね?
この「もう知ってる」という感覚が、言語野の学習を阻んでしまいます。脳は簡単にはアップデートできない仕組みになっていて、もう既に知っていることをわざわざ再学習しようとはしないように出来ています。しかし、視覚野と聴覚野のみを使って反射的な模倣を続けることで、アップデートを阻むフィルターを通過できるようになっています。
「頭で考えず、見聞きしたことを反射的にトレースし続けること」
これが、2つ目の条件です。
そして最後の条件は、
「極端なリラックス」
です。
脳機能のアップデートには、身体が極端にリラックスしている必要があります。限界までリラックスして身体の臨場感が低下した時に人間の脳はREM睡眠状態となり、夢を見ます。この夢を見る状態というのは、海馬(記憶を司る部分)から情報ダウンロードや情報アップデートといったアクセスが盛んに行われて、情動記憶や五感の記憶、新規学習情報が整理されている状態です。
実は、この極度のリラックス状態で見聞きしたことは、脳のフィルターを容易に通過してくれます。
こうした脳機能のアップデートモードを
「変性意識状態」
といいます。
「身体を極端にリラックスさせて、変性意識状態になる」
これが最後の条件です。
まとめ
「学習臨界期を突破して絶対音感を学習する方法」
- 膨大な時間を使う
- 見聞きしたことを、反射的にトレースし続ける
- 身体を極端にリラックスさせる
☆今日のトレーニング
ここで、音感トレーニングに有効なトレーニングをひとつご紹介します。まず前提条件は、
ピアノやキーボードを用意し、鍵盤に音名を書いたシールを貼ります。そして以下のトレーニングを極端にリラックスした状態で行ってください。※
音感トレーニング
- 任意の音を弾く
- 頭の中で同じ音程を思い浮かべる
- 鍵盤を見ながら、頭の中の音と同じ音程で歌う※
- 失敗、1に戻る
※ドイツ語式とイタリア語式の音名、どちらも可
毎日3〜12時間行うことで、
3週間〜3ヶ月で効果が現れはじめます。
ぜひ、参考になさってみて下さい。
さて、今日はここまでです!
また次回をお楽しみに𓆏