堀江真鯉男/発声の教科書

「声=息=体」のボイトレ

第12回「情動記憶とインステイト」

おはようございます、堀江真鯉男です。

このブログでは「声を良くする!テクニック」として、声楽家として自分が日頃気づいたこと、学んだことをまとめるために書き記しています。声の悩みを改善するサポートとして、何か皆さんのお役に立てたら嬉しいです。

 

今日のテーマは、

様々な感情表現をする際に必要な

 

「情動記憶とインステイト」

 

についてです。

まず結論から言うと、

 

感情表現が上手くいかなくて悩んでいる人は

過去の感情体験想像力必ず克服できる

 

という話です。

でも感情表現の方法論について取り上げると、

 

情動記憶???インステイト???

感情表現って、感情のままに表現すればそれでよくない???

 

という意見が必ず出てきます。

 

確かに、感情表現がうまくいっている人や、感情のコントロールで特に悩んでいない人には無縁な話ですので、そうした方には必要のない話かもしれません。

 

ここでわざわざ「感情表現のための方法論」を書くのは、世の中には「感情表現が上手くできない」「感情が上手くコントロールできない」という悩みを抱えている人が少なからずいる、という事実に基づいて、その人たちの「声の悩み」を改善するヒントやサポートに少しでもなったら良いな、という目的があるからです。

 

では早速、

情動記憶とは何か?から話していきます。

 

情動記憶=過去の感情体験

まず、

脳機能で定義される心の正負の状態(内部表現)は

  1. 自己評価(メタ認知)
  2. 過去の感情体験(情動記憶)
  3. 五感と言語(モーダルチャネル)
  4. 信念・価値観(ビリーフ)

これらの領域よって構成されています。

 

情動記憶」は今日から過去までの感情的な体験を司っていて、「喜怒哀楽」などの様々な感情は、この情動記憶からモーダルチャネルを通じて「不平不満」や「歓喜」として、態度や言葉に表れるようになっています。

 

感情表現が上手くいかなくて悩んでいる人は、この「情動記憶」にアクセスすることが問題解決の重要なカギになるわけです。でも、どうやって情動記憶にアクセスしたらいいのでしょう?

 

そのためには、ふたつの手順が必要になります。

ひとつは「徹底的な身体のリラックス」。

もうひとつは

過去に体験した喜怒哀楽の場面を思い起こす

です。

 

人間の脳は、身体がリラックスしている時にのみ、これまでの人生で体験してきた感覚や感情を思い起こすことが出来る構造になっています。(こうした脳の状態を変性意識状態といいますが、また別の機会にお話します)

 

つまり「感情表現が上手くできなくて悩んでいる」という人は、まずは徹底的にリラックスすることが大切です。ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、マッサージを受ける、ストレッチをするなどして、床で大の字になってぼーっとするのがいいと思います。やわらかいソファーに深めに座るのもアリです。

 

リラックス出来たら「過去に体験した喜怒哀楽の場面を思い起こす」をやって見ましょう。

 

たとえば、「子供の時に手を繋いだ記憶」や「おんぶしてもらった記憶」、「高い高いをしてもらった記憶」などは

嬉しい

という感情を呼び起こしやすいと思います。

また、「友達とケンカしてしまった記憶」、「誕生日に風邪をひいて寝込んでしまった記憶」、「クリスマスにひとりぼっちで街を歩いた記憶」などは「悲しい

という感情を呼び起こしやすいでしょう。

 

ただこれらは、どのような背景があったか?によって変化します。先程の「子供の時に手を繋いだ記憶」といった条件も、子供の頃の環境が窮屈で息苦しいものならば「いつも叱られて強く手を引っ張られていたっけな、悲しい」に転じる可能性もあります。

また逆に「友達とケンカしてしまった記憶」も、実はそれがきっかけでその友達が何でも話せる親友になった、という後日談があったりすると「あのケンカのおかげで親友ができた、嬉しい」に転じる可能性もあります。

 

このように、過去体験というものは様々な感情体験と結びついています。舞台芸術や歌唱芸術の世界でプロフェッショナルとして活躍する人達の多くは、自分の演じる役や時代設定、歌詞、音楽の世界に入り込みながら、その世界のテーマと共通する自分の過去の感情体験を思い起こして使い、リアリティーを生み出しています。

 

舞台芸術の世界ではこうした演技論を「メソード演技」といい、NLP(神経言語プログラミング)という心理療法の世界では「インステイト」と呼んでいます。

 

情動記憶とインステイト

「インステイト」というのは「想像の世界に、五感と感情のリアリティーを感じながら入り込む」という技術です。先程紹介したメソード演技も同じ手法によって行われ、舞台芸術や歌唱芸術のリアリティーはインステイトによって生み出されると言っても過言ではありません。

 

そして、インステイト技術の根幹となるものは

  1. 徹底的なリラックス
  2. 歌詞や配役の設定・世界観をできるだけ細かくリアルに想像する
  3. 歌詞や配役に関連しそうな過去の感情体験(情動記憶)を思い起こす

この3つです。

 

感情表現で悩んでいる人は、この3つを上から順番に試してみてください。

 

そして「インステイトした状態」で歌ったり演技をしてみると、感情表現とは「そう見せかける技術」ではなく「そこに入り込む技術」のことなのだと、きっと感じられると思います。

 

 

 

さて、今日はここまでです!

また次回も「声のこと」について書くので、お楽しみに𓆏