堀江真鯉男/発声の教科書

「声=息=体」のボイトレ

第18回「型と次元」

こんばんは!声楽家の堀江真鯉男です。

さてみなさん。

音楽の部活やレッスンなどで

「アドバイスをくれる人によって言うことが違う!どれを信じたらいいの?」

という悩みを持ったこと、ありませんか?

 

今日はそんな、

 

「複数のアドバイスをもらった時、どれを信じたらいいのか?」

 

についてお話します。

 

レーニングの落とし穴

何かに一生懸命に取り組んでるとき、自分の視点だけだと行き詰まってしまって…先輩や指導者からのアドバイスが欲しい時って、ありますよね。

 

歌で言えば、

 

「口ってもっと開けた方がいいのかなあ」とか、

「いや、開けすぎない方がいいのかな?」

 

なんて悩みが出てきたりします。

あるいは

 

腹式呼吸が大切なら、お腹はふくらませた方がいいのかな?」とか

「お腹は膨らませず、息は背中に吸えって教わったなあ。どっちがいいんだろう」

 

なんて悩みもあるのではないでしょうか。

アドバイスを思いながら練習するとき、果たしてどの意見を採用したらいいのでしょうか?

 

すべての意見を聞こうとすれば、相反した意見が自分の中でぶつかってしまい、時にはそれがスランプの引き金となることもあります。

 

こうした悩みは、自分のトレーニングを行う上で解決しておく必要があります。演奏能力を高めるという意味でも、いつか自分が誰かを指導する時に役立つという観点からも、この悩みを昇華するための結論を出しておくべきでしょう。

 

レッスンの現場で大切なことは、

 

「型の熟練度や目標設定によって、指導内容を変える」

 

ことだと思います。様々な声のタイプや癖を持つ人がいる中で、全員に同じアプローチの指導をするなんて絶対にありえません。

 

この事実を知っているだけで、「周りはみんな同じトレーニング方法で上手くなってるのに、自分だけ上手くいかない。なんでだ?」という落とし穴を回避することができます。

 

型の習熟度

「型の習熟度」とは何のことでしょう?

これは学んでいる領域やジャンルによって様々なものがあると思いますが、大まかに分けると「初心者の型」「中級者の型」「上級者の型」があり、初心者から中級者へ、中級者から上級者へ、というように「段をあがっていくことでより高度な技術を身につけることができる」という考え方です。

 

初心者、中級者、上級者については、紀元前から続くとある思想の中では

 

星幽的次元/初心者の型

論理的次元/中級者の型

(魔境・反転の次元)/型破り

至高の次元/上級者の型

 

という分け方がされていました。

歌唱スキルにおける代表的な型の例を上げると、

 

初心者の型/ミドルボイス型、ファルセット型

中級者の型/チェストボイス型、ヘッドボイス型

型破り(これまでの学びを反転させる)

上級者の型/ベルティング型、ミックスボイス型

 

などがあります。

さて、さっきから、なにやら気になるワードが出てきますよね?

 

「型破り、反転、魔境」

 

という言葉です。

実はこれが、多くの歌手を悩ませている根本的原因となっています。

 

型破り?反転?魔境?

これらが声楽に、どのような意味を持っているのでしょう。

 

型破り

=これまでの学びと反転する?

たとえば初心者に声楽レッスンを行う時は「もっと口を開けて!」とか「もっとお腹を使って!」「もっと気持ちを込めて!」という抽象的指導を行うことが多くなります。

中級者には「身体の仕組み」「呼吸のシステム」「声区のメカニズム」など論理的指導を行うことが多くなります。

さて、ここまでは「自分の能力をプラスしていくこと」にエネルギーを注ぐのですが、中級者から上級者に行く過程では、「プラスする」という意識だけでは成長しなくなってしまいます。それどころか「何もかもをやりすぎてしまい、大袈裟な歌しか歌えなくなる」というジレンマにも陥ってしまいます。

 

ここで登場するのが

「型破り」

というワードです。

これまでの学習の中で身につけてきた「プラスの方法論」と真逆の「マイナスの方法論」を自らに要求しなければ、より高位次元の発声にはたどり着けません。たとえば

 

「もっと口を開けて!」

「口の開けすぎは声区バランスを崩す、開けるな」

 

「もっとお腹を使って!」

→「お腹を膨らませれば横隔膜と骨盤底筋への腹圧が下がる、お腹は絶対膨らませるな」

 

「身体、呼吸、声区について考えろ」

→「考えすぎるな、感性はメカニズムだけでは表現できない」

 

というように、これまでの「○○しよう」という学習から「○○するな」と反転させた学習が必要になります。

 

これまでの「プラスの学習」から反転させた「マイナスの学習」はこれまでの型を破り成長を促す一方で、スランプを引き起こしたり、自己肯定感を著しく下げたり、虚脱感や倦怠感に苛まれるといった現象も引き起こします。そうしたスランプから抜け出せなくなることを「魔境」と言います。

 

自分はどの型にいるのか?

レーニングの中で大切なことは、自分の立ち位置を把握することです。つまり「自分の型のレベルはどれくらいなのか?」「次はどの型を目指せばいいのか?」という分析が、これまでの自分から更に成長していくために必要です。

 

ゲームが好きな人向けにスキルツリーを作るなら、

 

星幽的次元(初心者)

声区

→ミドルボイスLv1

→ハイラリンクスLv1

→ローラリンクスLv1

→ファルセットLv1

→呼吸技法Lv1

→身体技法Lv1

 

論理的次元(中級者)

ミドルLv5で解放→エッジボイス、ウィスパーボイス

ミドル&ローラリLv5で解放

→チェストボイスLv1

ミドル&ハイラリLv5で解放

→ヘッドボイスLv1

 

反転次元

呼吸&身体技法、チェスト、ヘッドLv10で解放

→呼吸と身体のエネルギーLv1

→声区融合Lv1

 

至高の次元(上級者)

上記全てLv10で解放

→ベルティング

→ミックスボイス

 

みたいなイメージです(人によって少しずつ違いますが!)

 

基本的に多くの指導者は、自分の立ち位置(次元、型)から生徒に指導を行います。指導者によって指導内容が変わるのはこうした理由が大きいのですが、もうひとつあります。

 

それは、

生徒に反転次元を超えさせようとするとき

です。

 

チェストボイスを極めたとしても、

ヘッドボイスを極めたとしても、

それだけではミックスボイスに至る日は永遠に来ません。

 

「胸の中にファルセットの響きを作る」とか、

「チェストボイスを頭の向こうに響かせる」とか、

普通に考えたら「何を言っているんだ?」というこれらの言い回しは、チェストボイスとヘッドボイスのレベルが高く、かつミックスボイス習得のために反転次元に入っている人にしか理解が出来ないものです。

 

複数のアドバイスをもらった時、どれを信じたらいいのか?

今日のまとめです。

大切なことはふたつあります。

ひとつめは、「自分は今どこの次元にいて、どの型を習得するためにトレーニングしているのか?」を明確化すること。

ふたつめは「指導者の意図がどこにあるのか、何をさせたくてそれを言っているのか、きちんと把握すること」です。

 

指導者の言っていることがよく分からなければ、直接どういう意味なのか尋ねるのが1番いいのですが、なかなか難しいこともありますよね。

 

だからいつも、想像力を働かせておく必要があります。ラグビーにせよサッカーにせよ、今コーチングにおけるスタンダードは「プレイヤーが脳をフル回転させて、自分で考えること」が最も大切だと言われています。

 

いつも、自分に問いかけましょう。

 

「いま自分は、なんのために練習しているのか?」

「目的と合致した指導者の意見はどれか?」

 

自分の目的と合致した意見を聞くこと。

そして、いまの自分のレベルでは進めない次の次元について指導者が言っている場合は、それを感じ取り、参考にすること。

 

こうした姿勢を持つことが、声を改善するためにとても役立ちます。

 

 

 

 

 

さて、今日はここまでです!🍀

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!𓆏