堀江真鯉男/発声の教科書

「声=息=体」のボイトレ

第10回「声質と共鳴区」

こんにちは、声楽家の堀江真鯉男です。

このブログでは「必ず声が良くなるテクニック」について、説明や実践方法などを皆さんにお伝えしています。

 

今回のテーマは、

 

「声質と共鳴区(きょうめいく)」

 

についてです。

 

「でたー!また知らない単語!」

「なんだ?きょうめいくって!」

ですよね??

 

実はカワボやイケボ、鼻声や喉声、よく響く声などのいわゆる「声質」というのは、

共鳴区のどこに声が響くか?

によって変化します。

 

では今回も、まずは共鳴区の定義付けからしていきましょう。

 

の響く感覚?

共鳴区とは医学的に、

「身体の中の、声が響きやすい空間」

のことを指します。

 

「身体の中の、声が響きやすい空間」はいくつか存在していて、身体の中のどこに声を響かせるか?を意識して練習することが、発声を改善する上で助けになります。

 

ここでは、代表的な共鳴区を見ていきましょう。

 

咽頭内共鳴

喉の奥は医学的に「咽頭(いんとう)」と呼ばれ、咽頭内に声が響くことを「咽頭内共鳴」と言う。

口腔内共鳴

口から喉の手前までを医学的に「口腔(こうくう)」と呼び、口腔内に声が響くことを「口腔内共鳴」と言う。

鼻腔内共鳴

鼻の中の空間を医学的に「鼻腔(びくう)」と呼び、鼻腔内に声が響くことを「鼻腔内共鳴」と言う。

胸腔内共鳴

胸の内部の空間を医学的に「胸腔(きょうくう)」と呼び、胸腔内に声が響くことを「胸腔内共鳴」と言う。

鎖骨内共鳴

喉仏の下から鎖骨の内側までの空間に声が響くことを「鎖骨内共鳴」と言う。

※この共鳴区は、必ずしも医学的に規定されない。トランスジェンダー発声法のひとつである「メラニー法」は、この領域のトレーニングを目的としている。

 

これをものすごく抽象的に言い換えて

 

声が響くポイントは

喉のなか、口のなか、鼻のなか、胸のなか

などいくつかあって、

どこに響かせたかによって声色が変わる

 

という説明の方が、分かりやすいですね。

発声の練習で大切なことのひとつは、

 

共鳴区のどこに声を響かせれば、

自分の求める声質になるのだろうか?

 

そうした意識付けを続けることです。

共鳴区の意識付けやコントロールの練習は、声優やナレーター、舞台役者、歌手、声楽家などの基礎能力を高める助けにもなります。また、発声に今起こっている問題の原因を突き止める上でも役立ちます。

 

鼻声の原

例えば「鼻声」という問題を発声の観点から改善するためには、咽頭を3つのセクションに細分化して考えていきます。

 

1.中咽頭(ちゅういんとう)

口の中を鏡で見た時に観察できる喉の奥

 

2.下咽頭(かいんとう)

鏡では確認できない喉の奥の下側

(食道に繋がるパイプの入口)

 

3.上咽頭(じょういんとう)

鏡では確認できない喉の奥の上側

(鼻に繋がるパイプの入口)

 

発声の観点から診ると、鼻声とは「口腔内(口の中)が狭すぎて、声の通り道(声道)が塞がってしまうことで起こる現象」です。

声の通り道が塞がると、声の出口を失った声は「上咽頭」を過度に押し広げて出ていこうとします。そして結果的に「鼻に力が入ったような声」や「鼻が詰まったような声」になってしまうわけです。

 

「口の中がせまいと、鼻声になる」

純化して言うならば、この一言に集約されます。

 

口の中が狭くなる人は日本語の「え母音」や「い母音」のように、口を横に広げて息を吸っている場合が多く、こうした呼吸の浅さが鼻声に直結しています。僕自身も様々な人をレッスンしていく中で、呼吸の浅さが原因で鼻声になっているケースを何度も見てきました。

 

この問題を改善するためには、

声の通り道が開きやすくなる

「Oの唇の形」で息を吸う

というエクササイズが必要です。

 

声の通り道を開通し、押し広げられた上咽頭をリラックスしたフォームに戻す。

そうしたトレーニングで鼻声は徐々に消えていきます。ぜひ、試して見てください。

 

身体をかす感覚「筋感覚」

発声の基礎力を高めたり、問題点を改善するためには、共鳴区に対する気づきや感覚に対して、繊細さを持ってトレーニングしなければなりません。

 

こうした身体的な運動感覚を「アレクサンダーテクニーク」という身体トレーニングの流派では

 

「筋感覚(きんかんかく)」

 

と呼んでいます。

 

現代的なボイストレーニングではこうした筋感覚を鍛えて共鳴区を知覚できるようにトレーニングする場合が多く、

「ヘッドボイス」や「ミックスボイス」といった声色の変化を習得するということは、

共鳴区に対する筋感覚を変えること

と言い換えることも出来ます。

 

東洋的な7つの共鳴

共鳴区の現代的な解釈は

「身体の中の、声が響きやすい空間」

のことを指していましたが、

紀元前の東洋(古代ボン教ヒンドゥー教バラモン教や仏教など)で研究されてきた発声の世界では、

「共鳴区=全身のあらゆる場所にある」

としています。

これは医学的な共鳴区の「身体内部の空間に響く」ではなく、

物理現象としての「物体の共振」にフォーカスを当てた考え方です。

 

身近な例でいえば、部屋で音楽を聴いていると、ある音の高さでカーテンレールが鳴ったりすることがありますよね。このように物体というのは、音の高さや大きさ、響き方によって共振します。凄い人になると高い声を出すことでワイングラスを共振させて割る人がいますが、テレビで見たことがある人も多いのではないでしょうか。

 

東洋的な発声研究の世界においては、

「物体としての身体」のどこに声が響くか?

という考察が紀元前からされてきました。そして「物体としての身体」が共振する場所を大きく7つにわけ、その共鳴区は「チャクラ」と呼ばれています。

 

「物体としての身体」に声が共振するポイントは、

 

  1. 会陰(股関節)/???
  2. 臍下丹田(仙骨)/???
  3. 腰椎(みぞおち)/???
  4. 心臓(胸腔)/チェストボイスの領域
  5. 首(咽頭)/ミドルボイスの領域
  6. 眉間(鼻腔、目)/ベルティングの領域
  7. 頭頂部(頭蓋)/ヘッドボイスの領域

 

の7つとされています。

(1ー3の???に関しては、別の機会でお話します)

 

実は発声のトレーニングを行う際に、

医学的な共鳴区の訓練ではあまり効果のない人が、少なからずいます。

そうした人達にひたすら現代的なボイストレーニングをしても成果があがらず、トレーニングを受けている生徒さんは次第に気力がなくなり、

「自分には才能がないのかなぁ…」

と落ち込んで行ってしまいます。

 

しかし、ハッキリ言います。

発声の才能が無い人なんて、

この世に一人もいません。

 

上手くいかない人は単純にトレーニングの方法が合っていないか、教え方に問題があるだけです。

 

なかなか上達しない人の多くは

「股関節や背中周りの疲れ」

「首や肩のコリ」

「頭皮の硬さ」

「胸周りの筋肉のストレッチ不足」

といった身体的ダメージや慢性的ストレス、

日常的なケア不足などが原因となっている場合がほとんどです。

 

こうした人はまず、

東洋的な7つの共鳴区(物体としての身体を響かせるポイント)に対して、

指圧などのケアストレッチ、筋力トレーニンを行う事が大切です。

また、睡眠の質を改善する、湯船に浸かるなどのストレス緩和を行うことも、必ず発声の質を変えます。

 

心身のケアを行う過程でも筋感覚は鍛えられるので、たまには気分転換に旅行に行ったり、時間を忘れて遊んだりして、出来るだけストレス値を下げるように努めましょう。

 

これは決してサボっている時間ではなく、

心身のケア、コントロールという大切な訓練の時間です。ですので、たまには声を使うことも歌うことも忘れて、解放された自由な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?

 

ぜひ、参考になさってみて下さい。

 

 

 

 

さて、今日はここまで!

最後まで読んで頂き、ありがとうございました𓆏