第9回「母音の純化」
こんばんは、堀江真鯉男です。
今日お話するのは
「母音の純化」
についてです。
母音の純化?なんだそれは!
聞いたことないな?
そんな人も多いかと思います。
一言で言ってしまうと
「母音に気をつけると、発声が良くなる」
という話です。
しかし「母音の発音練習」ではなく、
「母音の純化」とは?
一体、何のことを言っているのでしょう。
母音の純化と声道の関係
日本語には5つの母音「あいうえお」があり、このように「母音が5つある国」は世界中に沢山あります。そして、僕達日本人は「5つの母音=5つの口の形がある」と習ってきました。発音が良くなかったり歌が上手く歌えないと
「もっと口を動かせ!」
と言われた経験がある方も、沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
しかし「歌う時に声がうまく出ない」「声が途中で引っかかってしまう」という人は、こうした母音のウソに長年騙されてきた人達です。
「そうはいっても、母音ってちゃんと発音しなきゃいけないんじゃないの?口をハッキリ動かさないで母音をしゃべれるの?」
これまで多くの方のボイストレーニングをさせて頂く中で、何度もこうした嘆きを耳にしてきました。
母音を5つに分けて発音することは、
声の寿命を確実に削ります。
まず、声の通り道(声道)を開くことが出来る基本的な母音は
「O、A、U」
の3つだけです。
そしてこの3つの母音を発音する際に、
声の響き方、鳴り方、声質などを、ひとつの音色のシリーズに統一していく作業のことを
「母音の純化」
といいます。
声道を開くタイミング
母音の純化を行う際に大切なことは、息の吸い方です。
日本人の多くは口呼吸をする際に「あ」の口の形で息を吸います。「あ」の口の形はヘッドボイス(頭声)を響かせることに向いており「もっと口を開け!」というアドバイスの多くは、このヘッドボイスを意識したものが多いかと思います。
しかし、チェストボイス(胸声)の基礎訓練をしない内にヘッドボイスの練習をしすぎると、必ず喉を痛めます。
「あ」の母音の形で呼吸をしすぎると、息を吸う際に大量の空気が軟口蓋と扁桃腺を乾かし、粘膜を傷め、結果的に扁桃炎、咽頭炎などを引き起こします。
軟口蓋は、確かに声を響かせたり歪めたりと言ったディストーションの役割は持っていますが、声の通り道(声道)を確保すると言った目的から考えた場合は役に立たないどころか、かえって発声をおかしくしてしまい、中には
「軟口蓋さえ開けておけば発声はよくなるはずだ!なのになぜか発声が改善されない?きっと練習が足りないんだ、もっと軟口蓋を開けなければならない!」
という、軟口蓋のトレーニングを妄信する人まで現れます。
しかし大切なことは、まずは「声の通り道(声道)を確保すること」のはずです。喉がしまっていては、声が外まで綺麗に出てくれません。
そして喉を開くために大切なことは
「息を吸う時に、喉を開く」
ということです。
では、どうすればいいのか?
具体的には
「Oの唇の形」で息を吸う
というアプローチが、こうした問題を解決してくれます。
喉仏と声質の変化
息を吸う際の母音に応じて、喉仏の位置が変化します。そして喉仏の位置に応じて、声質に変化が起こります。
こうした「息を吸う際の母音」による声質変化を3つに分けて
「ミドルボイス(喉仏が真ん中の声)」
「ハイラリンクス(喉仏が上がった声)」
「ローラリンクス(喉仏が下がった声)」
と呼びます。
1.ミドルボイス(喉仏が真ん中の声)
「Oの唇の形」で息を吸うことで、喉仏の位置が安定しやすくなります。この喉仏の位置が発声訓練を行う際の基本位置となり、後にミックスボイス、ベルティングを習得する上での基礎になります。この状態を「ミドルボイス」と呼びます。
2.ハイラリンクス(喉仏が上がった声)
「Aの唇の形」で息を吸うことで、喉仏が上がりやすくなります。鼻声や浅い声、長いフレーズが歌えないといった問題が生じやすい発声です。反面、儚さや柔らかさ、幼さ、女性らしさを表現しやすい発声でもあります。この状態を「ハイラリンクス」と呼びます。
3.ローラリンクス(喉仏が下がった声)
「Uの唇の形」で息を吸うことで、喉仏が下がりやすくなります。喉声や篭ったような声、滑舌の悪さ、ガサツな声になるといった問題が生じやすい発声です。反面、芯の強さ、パワフルさ、重厚感、男性らしさを表現しやすい発声でもあります。この状態を「ローラリンクス」と呼びます。
こうした「O、A、U」の息の吸い方がとても大切なのですが、
加えて声を出す際に
「吸った時の、喉の開き方のまま、声を出す」
という意識付けを行うことで、発声に安定感が出てくるようになります。
声道を開く母音の派生系
ここまでは「O、A、U」の説明をしてきましたが、
「あれ?IとEはどこにいった?」
そう、「I、E」母音の説明がまだですね。
実はこのふたつの母音は、クラシックやポップスのボイストレーニングにおいて、日本語の母音の概念とだいぶ違っています。
「I、E」は日本語の場合、口を横に開く発音であり、口の中を狭めやすく、浅い声になりやすい母音でもあります。
「じゃあIとEは練習しないの?曲の中に母音は5個出てくるのに、そんなの変じゃないか!」
母音は5個。確かにそうです。
しかし「母音の純化」という概念の中では、あくまで声の通り道を開く基本的な母音は「O、A、U」の3つだけ。
そして「I、E」については、
「Oの派生系がI」
「Aの派生系がE」
と考えます。
こうした声の通り道を開く母音シリーズ
「O(I)、A(E)、U」
のことを、
「母音群」
と呼びます。
日本語ではEは口を横にやや引いて開き、
Iは唇を横に引いて発音します。
しかし母音群の考え方では、
「Oの口の開き」を保ちながら、
両唇を前にめくってIを発音します。
「Aの口の開き」を保ちながら、
両唇を前にめくってEを発音します。
このように「O(I)、A(E)、U」という母音群の訓練をすることで、全ての母音において声の通り道を開くことが出来るようになるわけです。
そして、この母音群の響きや声色を統一する作業を「母音の純化」と呼びます。
さて、今日はここまでです!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
また次回をお楽しみに!