第1回「声に悩む、全ての人へ」
はじめまして、堀江真鯉男です。
僕はこれまでにカウンターテナーとテノールによる歌手活動を行いながら、様々な声の悩みを持った人達のボイストレーニングを行ってきました。
レッスンを受けに来る人の中には、音声障害の方、トランスジェンダーの方、声を若返らせたい方、カウンターテナー志望の方、大道芸人、性別の違う声で歌ったり喋ってみたい方(そうした人を両声類といいます)など、様々な人がいます。
そうして彼ら、彼女たちとレッスンを通して向き合っていく中で、
「現代的なボイストレーニングには限界がある」
そう感じるようになりました。
ボイストレーニングの役割
そもそもボイストレーニングや発声指導というのは、歌手や役者、声優、アナウンサーなどの「仕事で声をメインに使う人、またはそうした職業を目指す人」に向けて発展してきた指導技術であり、もともとは職業訓練のための技術です。
これは当たり前のことなのですが、自分の声に違和感を覚えて「声を変えたい」と悩んでいる人と「職業訓練のために声を鍛えたい」と意気込んでいる人には、必要なトレーニングが違うはずです。
それにも関わらず、ボイストレーナーが「声を変えたい」と悩んでいる人に職業訓練のスキルで指導をしたら、どうなるでしょうか。
例えばボイストレーナーの請け負う仕事には「高い音を出す」とか「リズムや音程を正確に取れるようにする」「表現力を増やす」といった技術的問題の解決があります。
しかし声の悩みを持つ人の依頼内容には「トランスジェンダーなのですが、声の性別を変えて欲しい」とか、「病気は治っているんだけど声が出ない、助けて欲しい」といった、発声の問題と精神的側面を同時に解決したいというケースが数多くあります。
こうした声の悩みを持つ人に、
音程やリズム、正しいフォームの習得といった職業訓練が必要でしょうか?
現代的なボイストレーニングメソッドに責任があるとはいいません。事実、そうしたメソッドをうまく応用して「ある程度」まで依頼者の能力を引き上げることのできるトレーナーも多数いるでしょう。
しかし現代的なボイストレーニングでは、問題の根本的な解決に至ることは少ないと思います。根本的な解決、つまり「原因療法」をせずに、目に見える問題を即時的に解決しようとする「対処療法」によるレッスンが、とても多いように感じます。
たしかに対処療法的な指導でも、その瞬間は良くなります。しかし根本的な解決に向かってアプローチしなければ、数日たつと訓練を受ける前の状態まで戻ってしまいます。
そして、こんな声が沢山聞こえるようになります。
「ボイストレーニングに通ってるのに、ぜんぜん満足できない!上手くならない!」
世の中には、そんな人がザラにいるのです。
歌の感性を引き出す方法?
「そんな馬鹿な!じゃあ、ボイストレーニングに通う意味はないっていうのか!」とか、「うちの生徒はちゃんと上手くなっている!」といったお叱りの声が聞こえてきそうですが、そうではありません。
声が変わる、あるいは歌が上手くなるプロセスには、ある条件が存在しているのです。これまでのボイストレーニングの世界では、その条件を「感性(センス)」と呼んでいました。「感性」のある人は上手くなるし、「感性」がなければ上手くならないという理屈です。
「感性」という曖昧なものを信奉する人の中には、困った事を言い出す人がいます。
「感性がないというのは、才能がないということだ!」
そんな考えを持つ人がいるのです。
ボイストレーナーが依頼者に「才能がない」などと言うのは論外ですが、指導する側が「この人には感性がないな」などと思ってしまうと、態度が投げやりになったり、レッスンへの真剣味が失われてしまい、その態度を見た依頼者自身が「自分には才能がないのかな...」と自己評価を下げてしまうケースもあります。
しかし、感性のない人などこの世にいません。
そもそも感性とは「モーダルチャネル(五感の入出力)×情動記憶(過去の記憶)×観念(自分の中の常識)」のことなので、感性は全ての人間が持っているはずです。
つまり、
上手くならない人は感性がないのではなく、
感性の引き出し方を知らないだけです。
そして感性を引き出すことが声の悩みを解決させる鍵なのだとすれば、
「ボイストレーニング×感性を引き出す方法」
これこそが、あらゆるタイプの声の悩みを解決する発声トレーニングなのではないでしょうか。
ボイストレーニングに行こうかなと思っている人。
すでにボイストレーニングに通っている人。
声を変えたいけど、どうしたらいいのか途方に暮れている人。
僕がこれまでに発声の研究をライフワークとして、様々なジャンルから得た知識の掛け算が、きっとみなさんの役に立つと思います。
このブログでは、「声の悩みを解決する方法」について綴っていこうと思います。もしよければ、参考になさって下さい。
次回の記事もお楽しみに!